<第2回>自分の“好き”に回帰せよ!「箱庭技研」創業秘話

箱庭技研
ホビー関連商品の製造
ユニークな特長を持つ箱庭技研の製品群ですが、同社の出発は、社名のオートメディア出版という名の通り、DVDコンテンツの制作でした。
一見関係なさそうな、DVDとジオラマシートですが、そこには鈴木さんの"好き"という接点があったのです。
◆目次◆
<第1回>ジオラマシート専門「箱庭技研」とは? ~マイコレクションに、活躍の場を与える~
◆◇◇◇
>:
箱庭技研という名前はブランド名で、運営会社はオートメディア出版株式会社となっています。オートメディア出版さんの設立は2013年ですが、設立の経緯や箱庭技研誕生に至るできごとを、おうかがいできればと思います。
鈴木:
実は起業しようなんて、全然思っていなかったんです。高校を卒業してからは、大学に通いながらインターネット関連のベンチャー企業を経て健康食品会社に転職しました。でも、東日本大震災がありまして。
>:
東日本大震災で、お勤めになっていた健康食品会社さんが廃業になってしまったと聞きました。
鈴木:
はい。健康食品の会社自体は都内だったのですが、原料の仕入れ先が気仙沼だったんです。当時婚約していた家内が宮城県出身だったということもありまして、震災の前には仕入れ先に近い方が便利なので移り住もうかと思っていたくらいで。そこまで行っていたのに、震災で健康食品会社が立ちゆかなくなってしまい、結果、新しい商売をということで、起業することになりました。
>:
2011年は、ほんとうに大きな転機だったのですね。では、その後こちら(宮城県)に移られて?
鈴木:
会社はこちらで登記したのですが、起業当時は神奈川県の湯河原に住んでいたので、しばらくはそこで事業の準備をしていました。
>:
その準備期間に作成したDVDで、オートメディア出版さんが始動したわけですね?
鈴木:
全国のセブン‐イレブン全店舗、当時で約17000店舗で陳列販売をしていただきました。
>:
それがすごいと思いました。動画のDVD作成をして、販路もしっかり確保するという。もともと経験があったわけではなかったんですよね?
鈴木:
インターネットベンチャーのときに、インターネット放送局の仕事もしていまして、動画はそのときにやっていましたから。研修でNY本社に数週間行っていたこともあります。販路も、インターネットベンチャー時代のご縁があってのことでした。
▲オートメディア出版が製作した「大集結!! 日本の警察車両」ほか。ナレーションは、初代ウルトラマンのスーツアクター 古谷敏さんが務めている。古谷さんの出演も、インターネットベンチャー時代のご縁によるもの。
>:
なるほど、インターネットベンチャーにいらっしゃった経験だったりご縁が活かされているんですね。DVDは、警察車両、消防車両、緊急車両の3種類リリースされています。
鈴木:
当初は、パトカーのDVDだけを作るつもりだったんです。小学生のときに、トミカを全部パトカーに改造したくらいパトカーが好きなので。サイレンを鳴らしながら、ほかの車が停まっている中をバーッと走っていくのはカッコいい! という感じでしたね。
>:
子供の頃の熱が高じて、パトカーを選んだということですか?
鈴木:
成人になってからのきっかけみたいなものもあります。震災の時に健康食品会社が廃業になったというお話はしましたが、その時期に生活の足しにするためにミニカーのコレクションをe-bayなどで国内外に売ったんです。そうしたら、けっこう売れまして。
健康食品には消費期限などの制限があるのに、ミニカーは時間が経つとプレミアすら付いたりして、こんな素晴らしいアイテムがあるんだろうかと(笑)。
>:
眠っていたものの価値に目覚めたんですね(笑)。でもいきなりミニカーを作るのは難しい。
鈴木:
難しいですね。製造は本当にハードルが高いです。その中で、何か商売をと考えた時に、パトカーの写真もたくさん撮っていたので、それを写真集として出せばいいのではないかと考えました。イニシャルコストはかからないし、注文が入れば増刷すればいい。
そこで、全国を飛び回って写真を撮っていたのですが、移動で高速代やガソリン代もかかりますから、もったいないので動画も撮ることにしました。そうしたら、動画のほうが増えてきて、だったら写真集ではなくDVDにしよう、という流れです。
>:
素晴らしい行動力ですね!消防車や救急車はどのような経緯で作成されたのでしょう?
鈴木:
セブン‐イレブンさんに提案に行ったときに、パトカーだけでは物足りないという話になりまして。やっぱり緊急車両といえば、パトカーのほかに消防と救急の3つ揃ってのものですから、店頭では3つ揃えて並べたいわけです。3つ揃えてくれるならOK、という話を言われまして、「わかりました」と、急遽撮影することになりました。
ただ、救急車って、当時全然映像化されていなかったんですよ。
鈴木:
そうしたら、これもご縁なのですが、インターネットベンチャーで一緒に働いていた方が日本赤十字社と繋がりがあって、その方を通じて全国の車両撮影のご相談ができました。その後、日本赤十字社さんにはDVDを寄付させていただきまして、日赤献血ルームに置かれたりもしています。
>:
そうした理由で、社名もオートメディア出版さんなんですね。
鈴木:
そうです。車両のメディアということで、取材先にもすぐに分かっていただけました。
>:
その後DVDの新作は作られなかったのですか?
鈴木:
当初は、毎月DVDをリリースしようという話がありまして、体制も整え始めていました。でも、コンビニさん的にこういったDVDは、何年かに一回センセーショナルに出すものであって、ずっとやり続けるものではなかったんです。
あのときは、機材もスタッフも揃えてしまって「次は海上保安庁や自衛隊に撮影行きますか?」みたいな感じになっていたのですが、そんな状況ではなくなってしまいました。海上保安庁や自衛隊からは「いつでも撮影しに来てください!」と言われてはいたのですが。
>:
それならば、他のテーマでDVD作成を、と行きそうなところですが?その次はもう、ジオラマシートの開発に入られていますよね?
鈴木:
DVDがダメとなったときに、この先どうしたらいいんだろうと考えました。そこで、「ミニカーが好きだった」というところに立ち戻って考えたんです。ミニカーって、持っている人は何台もたくさん持っているので、そのたくさん持っている人が楽しめるアイテムがいいなと。
それには、子供の頃に絨毯の上でトミカで遊んだような、ああいう感じのシートがあれば、コレクションを置いて楽しむことができる。シートならば安く作れるし、ミニカーを購入しているユーザーさんに、その先の楽しみを提案できると思って、「ジオラマシート」を発案したんです。
>:
これまでの方向であったメディアではなくて、あくまでもご自身の原体験、原点であるミニカーに戻ると。脈絡がなさそうでいて、原点では方向性は変わっていないということですね。箱庭技研という名前も面白いです。
鈴木:
ネーミングも、会社としてブランド名がないとだめではないかという話になりまして。オートメディア出版という名前では、商品の性質上ピンとこない。社員にもブランド名の候補を出してもらおうとしたのですが、みな全然興味がなくて一つも出してくれなかった(笑)。
>:
それまでDVDを作る現場だったのに、ジオラマシートといきなり言われてもみたいな(笑)
鈴木:
「これ、なんなんスか?」みたいな感じでしたね。結局、名前に関しては、僕の兄弟が当時ホンダ関連の会社に勤めていて、あそこって、正式な名称は本田技研工業株式会社じゃないですか?それがカッコいいと思いまして「技研」のインスピレーションをいただきました。
「箱庭」というのは、日本にはもともとミニチュアや盆栽の文化があって、箱庭という言葉もあります。現代の技術でコストパフォーマンスのいい商品を開発するという"技研"と、小さいものを総称した"箱庭"を組み合わせて「箱庭技研」に決めました。
決めたは良いのですが、みんなの反応は「ははぁ?」「カッコ悪くないですか?」みたいな(笑)。でも、いいモノを出せば名前は付いてきますし、むしろカッコ悪いくらいがちょうどいいんじゃないかって思っています。
>:
商品リリース後の反響はどうだったのでしょう?ホビー系の販路も未経験ですよね?
鈴木:
最初は全然数が出ないというか、反応がない!(笑)という状況でした。
>:
問屋さんには、営業をかけたのですか?
鈴木:
いいえ。問屋さんにご相談できる段階ではないという感じでした。まったく実績がないので。せめて、何本売れましたみたいな形で実績を持って行きたいのですが、数カ月経ってやっと一個注文が入った、、という感じでしたね。
ただ、時間が経つにつれ、画像を見た方から、「これスゴいね、どういうものなの?」というご質問が徐々にくるようにはなってきました。
>:
それは、ユーザーさんが撮影した画像ですか?
鈴木:
ユーザーさんが撮影したものだったり、我々が作例として並べた写真です。リリース当初から、e-bayやYahoo!に個人ベースでちょこちょこと売り始めていたのですが、そのあたりからじんわり反応が出始めたという感じですね。
>:
とはいえ、出だしはけっこうよろしくなかったということですね。それでも続けていかれたのはすごいです。
鈴木:
信念を持っていたといいますか。商品を開発して、実際に立体物を置いたときに「うわあ!楽しい!」って思ったので、これは皆さんにも楽しいと思っていただけるということだけは信じていました。
>:
その後、現在のように商品展開も広がってきたわけですが、転機はあったのですか?
鈴木:
月刊ホビージャパンさんに掲載していただいたことが大きかったですね。ホビージャパンの関係者が、たまたまジオラマシートを見てくださったみたいで、「これを掲載したい」という連絡を受けました。2015年末の話で、掲載は、2016年2月号でした。
>:
年明けの号になりますでしょうか。反応があったんですね?
鈴木:
問い合わせも入ってきて、売り上げが3倍になったりと、変化がありました。これは実績としても大きいなと思ったので、お付き合いのあった問屋のマイルストンさんにお話ししたら、即答で取り扱いしてくださることになったんです。
▲箱庭技研の商品が紹介された、月刊ホビージャパン2018年2月号。鈴木さんの写真も!
>:
ジオラマシートに対する理解がない中で、じわじわユーザーさんが増えていって、ホビー誌に掲載されることで、盛り上がったということですね。
鈴木:
改めて振り返ってみると、こんな歴史があったのかと自分でもびっくりします(笑)。ご縁の大切さをしみじみと感じます。
>:
ディスプレイケースシリーズはどういった経緯から商品化に至ったのですか?
鈴木:
ジオラマシートを使って商品撮影をしていると、撮影用サンプルの数がどんどんが増えてきたり、棚に保管している撮影用サンプルがホコリをかぶってしまったり、色あせしてしまったりするんです。そして、スケールが小さなものは数も多く、作例撮影のセッティングするだけで何時間もかかって一苦労。撮影が終わって片づけてしまうのはもったいないと常々感じるようになったんです。
>:
それが商品化のきっかけなのですか?
鈴木:そうです。
うちでは多くの撮影サンプルを所有していますが、ユーザーさんの中でも好きな方はいっぱいコレクションを所有しているだろう、と。ユーザー目線で考えれば、こういった需要は絶対あるはずです。
ジオラマシートの先には、大切なコレクションを引き立たせる「ハコ」、すなわち、プラットフォームが必要だと考えました。ジオラマシートを簡単に設置できるものであったり、コレクションを組み合わせたレイアウトをディスプレイしていつでも眺められるような。
>:
しかし、簡単にこういった商品を商品化することは難しいですよね?
鈴木:
そうなんです。情報も知識もゼロだった時に、「レーザー加工機」という工作機があることを知りました。パソコンで作ったデータを正確に切断加工できる機械です。
さらに色々調べていくと、「Fablab」という、時間単位でレーザー加工機を使用できる、ものづくりの場が全国にある事を知りました。購入すると非常に高価な機械ですが、時間単位で数百円とか数千円で使わせてくれるんです。
当時は事前予約しても時間制限があったり、思う存分使えるところはなかったのですが、名古屋のcre 8 Base KANAYAMAさんというFabLabで、会員になったら機械が空いている限り使い放題、という信じられないところを見つけました。1か月6000円の会員費で使い放題だったんです。
>:
まさか、宮城から名古屋まで行ったのですか?
鈴木:
そうです。幾度となく通いました。一回行くと数日間滞在して何十時間も使わせてもらったので、往復の交通費を考えても名古屋まで通うのが一番安かったんです。その後は東京に「Techshop Tokyo」という日本最大級のFabLabができたので、ここもメンバーになって通い詰めました。
>:
名古屋に比べると、だいぶ近くなりましたね(笑)
鈴木:
距離が半分くらいになりましたから、とても近く感じました。Techshopの店長さんは宮城県の女川出身で、宮城から来ていると知り喜んでくれ、いつも相談にも乗ってくれて親身にサポートしてくれました。
Techshop Tokyoでは、ありとあらゆる工作機械をレクチャーを受ければ使うことができるんです。溶接からワイヤーカット、NC加工機から3次元金属加工、大判印刷機から真空成型機まで。
>:
そんな機械まで使うことができるんですか?
鈴木:
本当に勉強になりました。「ものづくりって、こんな楽しいものなんだ」と。これらの機械の中で、うちにとって必要な機械というものを絞り、試作を繰り返しました。色々なノウハウも操作方法も学んだので、それらを自社で揃えました。
それらの機械が、いまうちの加工場に揃っていて、ここからmade in Miyagiで商品が作られています。
>:
FabLabとの出会いというものも、箱庭技研にとってはとても大きかった、という事ですね。
鈴木:
本当にそう思っています。高価な工作機械を思う存分使えることができたことは、とても貴重な経験になりました。志とFabLabがあれば、全国どこでも誰もがホビーメーカーになれる、という先駆者になれればと思っています。
◇◇◇◇
東日本大震災の影響があるとはいえ、そこから起業しようというのは、なかなか発想しがたいもの。また、DVD制作から箱庭技研という転換も、理由を聞けば納得できるものの、やはりインターネットベンチャーに在籍した鈴木さんならではの行動原理を感じ取ることができます。
次回最終回では、鈴木さんの人となりを探り、「宮城発」に賭けるその思いを聞きます。
To be continued<第3回>ホビー界、宮城の星。「箱庭技研」が目指す未来
文:吉川大郎
取材・写真:小縣拓馬